天使祝詞の推移

 

 Ave Maria (アヴェ・マリア)の日本語訳を年代順に並べてみました。当然の事ながら、これらが全てではありませんが、キリシタン時代から現代まで、どの様に変わって行ったかを見てみると、結構面白いと思います。中国語と英語も参考の為に載せました。ローマカトリック教理詳解と公教提要及び公教会祈祷文以外の祈りは、残念ながら引用書籍が不明です。申し訳ありません。

 die 5 Octobris 2004:
 以上に於いて、引用書籍が不明なのは本当に申し訳御座いません。調べたのは随分前の事で、当時は公表する心算等無く(
Webは身近では無かった)、出典を記すなんて事は思いもよらなかった為です。

 この推移の中に、現在使わされている口語訳が無いのは、以下の御祈りの変遷の中に共通する物が口語訳には見え無い為、似て非なる別物として捉えて居るからです。
 先達から綿々と受け継がれ、時代の淘汰を受け、こなれて美しい日本語と成った御祈りが、何で現代に成って非なる物に成らなければいけないのか理解に苦しみます。口語版の祈りが、受け継がれてきた信仰の断絶を目指し、過去の信仰の断罪を目的としているのならば、成る程充分に理解出来ます。

 因みに口語でコンタツを唱えた事は在りませんし、これからも無いでしょう。敬神行為に相応しい言葉は日常用語では無いと思えます故。

 また、「がらさみちみち」でコンタツを唱えるのは面白いかも知れませんが、主祷文や栄唱、其々の玄義を如何するか等の問題が発生して来るのではないでしょうか?ファチマの射祷も当時は無かったですし。独り善がりな信心に陥る危険性も在ります。資料として捉えて下さいませ。

 天使祝詞と云う言葉自体が、充分に日本的な言葉で在ると同時に的確な訳で在る事は断言しても良いと思います。




では、ラテン語よりどうぞ。

 

Salutatio Angelica

Ave, Maria, gratia plena, Dominus tecum: benedicta tu in mulieribus, et benedictus fructus ventris tui, Jesus. Sancta Maria, Mater Dei, ora pro nobis peccatoribus, nunc et in hora mortis nostrae. Amen.

 

アベマリアといふオラショ

(どちりなきりしたん1600年より)

 ガラサみちみち玉ふマリアに御れいをなし奉る。御あるじは御みもとにまします。にょにん(女中)の中にをひてわきて御くはほう(果報)いみじきなり。又御たいないの御みにてましますゼズスはたつとくまします。デウスの御ははサンタ マリアいまもわれらがさいごにも、われらあくにんのためにたのみたまへ。アメン。

 

あべまりあ

(ぎや・ど・ぺかどる 推定1591年より)

 がらさみちみち玉ふまりあに御れいをなし奉る御主は御身と共に御座ますにょにんの中にをひてべねぢいたにてわたらせ玉ふ 又御たいないの御実にて御座ますぜずすはべねぢとにて御座ます でうすの御母さんたまりあ 今も我等がさいごにも我等悪人の為に頼み給へ あめん

 

生月オラッショ神田本

より(生月に伝承した書籍)

 ガラツサ道々タマウ 御身ニ御礼ナシ奉リテ 御ナラデハ 御人共ニオワシマス 用人ノ中ニオイテモ 明ケテ カオ ヨミチギリナリ 又御タイナリハ 御身ニテマシマス デーウスノ御母サンタマリア 我等ハ是ガサイコニテ 我等ハアク人ナレバ ツツシンデタモウ タマイヤ アンメズス マリヤ

 

がらさみちみち

(聖教日課 初版 1868年刊より)

 がらさみちみちたもふまりや、おんみにおんれいをなしたてまつる。御主様おん身と共にまします。女人の中において御くわほふいみじきなり。また御たいないは、ぜずすさまたつときにてまします。天帝のおんはゝさんたまりあさま、われら、いま、さいごのとき、あくにんなれどもつゝしんでたのみあげたてまつる。あめん。

 

聖母経

(聖教日課 三刻版 1874年刊より)

 聖寵満せ給ふ瑪理亜、御身に御礼を成し奉る、大主御身と共に在す、女人の中に於て別て御果報伊美敷なり、又御胎内は耶蘇聖く在す、天主の御母聖瑪理亜、我等今も最後の時も悪人なれとも、謹んで頼み上げ奉る亜孟。

 

ローマカトリック教理詳解

(大正9年8月15日初版、昭和10年4月21日第3版より)

 慶たし聖寵充ち満てるマリア主汝と偕に在す汝は女の中にて祝せられたり。又御胎の御子イエズス祝せられ給ふ。天主の御母聖マリア罪人なる我等の為に今も臨終の時も祈り給へ。アーメン。

 

公教提要

(昭和5年6月15日発行より)

 慶たし聖寵満充てるマリア、主爾と共に在す、爾は女の中にて祝せらる、又、御胎の御子イエズス祝せられ給う。天主の御母聖マリア、罪人なる我等の為に今も臨終の時も祈り給へ。アーメン。

 

公教会祈祷文

(昭和39年4月20日 25版より)

 めでたし、聖寵充ち満てるマリア、主御身と共にまします。御身は女のうちにて祝せられ御胎内の御子イエズスも祝せられ給う。天主の御母聖マリア、罪人なるわれらのために、今も臨終の時も祈り給え。アーメン。

 

聖母経

 亞物瑪理亞. 滿被額辣濟亞者. 主與爾偕焉. 女中爾爲讃美. 爾胎子耶蘇併爲讃美. 天主聖母瑪理亞. 爲我等罪人. 今祈天主. 及我等死候. 亜孟.

 

The Hail Mary

Hail, Mary, full of grace, the Lord is with thee; blessed art thou among woman, and blessed is the fruit of thy womb Jesus. Holy Mary, Mother of God, pray for us sinners, now and at the hour of our death. Amen.

 

ついでに、

Salve Regina(サルベ・レジナ)も少し……。

ご多分にもれずラテン語から……

 

Salve, Regina, Mater misericordiae: vita, dulcedo et spes nostra, salve. Ad te clamamus exsules filii Hevae. Ad te suspiramus gementes et flentes in hac lacrimarum valle. Eja ergo, advocata nostra, illos tuos misericordes oculos ad nos converte. Et Jesum, benedictum fructum ventris tui, nobis post hoc exilium ostende. O clemens, o pia, o dulcis Virgo Maria.

V. Ora pro nobis, Sancta Dei Denitrix.

R. Ut digni efficiamur promissionibus Christi. Amen.

 

さるべれじな

(どちりなきりしたん より)

 憐れみの御母、皇妃にてまします御身に御礼をなし奉る。我等一命、甘味頼みをかけ奉る御身へ御礼をなし奉る。流人となるエワの子ども御身へ叫びをなし奉る。此の涙の谷にて呻き泣きて御身に願いをかけ奉る。これによて我等が御執り成して憐れみの御眼を我等に見むかはせ給へ。又此の流浪の後は、御胎内の尊き實にてましますゼズスを我等に見せ給へ。深き御柔軟、深き御愛憐、優れて甘くましますビルセン マリアかな。

 デウスの尊き御母。

 キリストの御約束を受け奉る身となる様に頼み給へ。アメン。

 

元后、憐れみ深き御母

(公教会祈祷文より)

 元后、憐れみ深き御母、我等の命、慰め、及び望みなるマリア、我等逐謫の身なるエワの子なれば、御身に向いて呼ばわり、この涙の谷に泣き叫びて、ひたすら仰ぎ望み奉る。ああ我等の代願者よ、憐れみの御眼もて我等を顧み給え。またこの逐謫の終わらん後、尊き御子イエズスを我等に示し給え。寛容、仁慈、甘美にまします童貞マリア。

 天主の聖母、我等の為に祈り給え。

 キリストの御約束に我等を適わしめ給え。アメン。

 

Hail, holy Queen,

Hail, holy Queen, Mother of mercy! Hail, our life, our sweetness, and our hope. To thee do we cry, poor banished children of Eve. To thee do we send up our sighs, mourning and weeping in this vale of tears. Turn then, most gracious advocate, thine eyes of mercy towards us. And after this our exile, show unto us the blessed fruit of thy womb, Jesus. O clement, O loving, O sweet Virgin Mary.

V. Pray for us, O holy Mother of God.

R. That we may be made worthy of the promises of Christ. Amen.

 

 

如何でしょうか? 私達が日頃唱えている祈りを信仰の先人達がどの様に唱えていたかを知るのは、無駄では無いと思えましたので紹介致しました。

 

「めでたし」の要理はこちら!
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